弱視児のための拡大教科書の普及


弱視の児童生徒には拡大教科書が必要   
   視覚に障害のある児童、生徒が学校で教育を受けるためには、点字の教科書あるいは文字などを大きくした拡大教科書が必要である。最近の文部科学省の調査では、弱視児等(全盲を含む。以下同じ。)の数は、概数で、小学校段階で3500人、中学校段階で1500人、高等学校段階で1800人、合計で6800人である。
 また、弱視児等に関し、学校として主に使用することが望ましいと判断している教科書の種別ごとに見ると、概数で、点字教科書を使用することが望ましいと判断されている弱視児等は400人、拡大教科書は2000人、通常の検定教科書は2200人、絵本等の一般図書は2000人である。

 従来、点字教科書は、ボランティアの活動を出版社が応援するかたちで、出版が進んできたが、拡大教科書については未だしであった。現場では、拡大コピーなどによって対応してきたものと思われる。 
 
教科書出版会社に拡大教科書発行の努力義務が課された。来年度から発行される予定   
   弱視児等に対する教育の充実を図るため、2008年6月に「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」が成立し、これにより教科書出版社に文部科学省が定める標準規格に基づく拡大教科書の発行の努力義務が課された。
 これを受けて、来年度から教科書が全面改訂される小学校については、全検定教科書280点のうち278点で拡大教科書が発行される予定である。再来年度からは、中学校の教科書が全面改訂されるが、ほぼ同じ傾向を示すものと思われる。従来、関係者に配布される「教科書目録」には、拡大教科書についての記載が無かったが、教育課程の全面改訂と前記の法律の施行に伴い、発行される教科書に拡大教科書を発行するかどうかがマークで併記されるようになったので、教科書出版社としては、これが教科書の採択に影響すると考え、各社とも懸命な努力を払って拡大教科書の発行にふみきったものと思われる。 
 
義務教育の拡大教科書は、無償給与の対象となる。   
    教科書の採択にあたっては、学校は、必要な数だけ拡大教科書を採択すればよい。義務教育の教科書については、国が無償給与することとされているので、拡大教科書の発行は、教科書発行会社が必要経費を算出し、国と交渉することになる。採択の状況により、会社ごとに発行部数も違うので、拡大教科書の単価も、会社ごとに異なることになる。  
高等学校の拡大教科書はどうなるか。   
   高等学校の教科書については、これまで拡大教科書は無いに等しい状態であった。しかし、中学校の教科書の全面改訂の翌年度からは、学年進行により教科書が全面改訂される(4か年かかる。)ので、小中学校と同様とは行かないかもしれないが、かなりの教科書出版社が拡大教科書の発行にふみきるものと思われる。
 高等学校の教科書は無償給与の対象外であるが、拡大教科書は、別に国の補助金があり、これを受けると地方公共団体の負担がどうなるかにもよるが、保護者の負担はある程度までカバーされるものと思われる。
 
 
拡大教科書のデジタル・データの利用   
   拡大教科書のデジタル・データは、発行者みずからこれを使用して拡大教科書を作成するほか、発行者からデータ管理機関(現在は、富士ゼロックス)にあずけられる(義務制)。そして、厳重な管理のもとに、国から指示があった拡大教科書を作成するボランティア団体・民間事業者などに提供される。   
拡大教科書の姿
 拡大教科書の大きさは、A4版を基本とする。あまり大きくても使いにくいからである。そのため、通常の検定教科書よりもページが増える。活字の大きさは、3種類あり、小学校低学年なら26ポイント、高学年なら22ポイント、それ以上なら20ポイントが標準である。高校の歴史教科書の詳しいものだと、20分冊以上になるのではないかとも言われている。 文字拡大のイメージ

教育

字体は、教科書体が用いられる。)
   上に記したように、拡大教科書は、教科書の全面改訂にあわせて、その発行部数が増えるのはまちがいないと思われる。
2010.11.24 藤村 和男 (教科書研究センター)
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(101201追加)