感想のおたより  環境保全・自然保護

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最新の寄稿  2013.6.7掲載
佐渡のトキ 絶滅の危機から再生への道のり トキの再生事業は、人とトキとの関係を再構築する試みだと思う。   以前、トキの野生復帰の仕事に関わっていて、初めての放鳥の前に現地を見に行ったことがあります。その時、過疎の集落に住む老夫婦が、かつて米を作っていた山の上の棚田に連日通ってトキの餌になるドジョウを増やそうとしていた姿を見、同じようにトキの復活を心から願って一生懸命に活動している地元の多くの人たちに出会い、感動しました。
 この事業は、 人とトキとの関係を再構築する試みだと思います。あまり急がず、じっくりと成果を上げて行かれることを願っています。
(2013.5.8)
阿部 宗広 氏
(東京都練馬区) 
中国洋県の河川敷で見たトキの親子の姿   昨年夏、JICAから派遣されている知人の案内を頼りに、仲間とともに中国の陝西省洋県を訪れ、トキの保護増殖・野生復帰を図る日中協力、現地官民挙げての取組みを垣間見る機会を得た。
 西安から秦嶺山脈を高速道路で越え、南麓の「宇陝朱鷺野生復帰基地」、保護増殖施設の基幹「洋県朱鷺飼養場」を訪問した後、近傍の農村地帯に野生復帰トキの生息状況を観察するため、水田地帯を緩流する河川沿いに歩を進めると、随所に飛来しては歩行・採餌し、やがて飛翔してゆくトキの姿を多数観察することができた。
 そのうち、河川敷の草むらで係留採餌している水牛の至近距離に、単独孤立する個体が目に留まった。やがて1羽のトキが野面石積の護岸上部に飛来した。はじめは偶々、別の個体が来合わせたもの程度に考えていたが、採餌するでもなく、行きつ戻りつする行動が私たちの関心を呼んだ。どうやら下の河川敷の方を気にしているのでは?と思った途端、「お! 飛ぶぞ」の声に押されたように大きく広げた羽根と共に緩やかに件のトキの近くに着地した。2羽を較べると明らかに体型に差が見られた。大きな方が促すように中段の平坦地に向かうと、小さな方がおとなしくついて行き、やがて嘴をつついて餌をねだる様子を見るに至って、ようやく親子であることに気付かされた。しばらく長閑な食事に時を過ごした後、母トキが先導して飛び立った。広々とした水田地帯を緩やかな上下動を繰り返しながら、彼方の丘陵地帯に向けて飛翔する2羽のトキ色の羽根を目で追った。
 ふと、東北の農村に学童疎開していた頃の田園風景を思い浮かべた。あるがままの自然の中で、季節・時間の移ろいと共に、いま生きているこの時間をいとおしく、大事に過ごしてゆくゆとり。これこそ生き物仲間の一員として地球上に生きる私たちが忘れてはならないものである。
(2013.5.8)
 小角  浩 氏
(環境コンサルタント、千葉県袖ヶ浦市)
日中両国の政府間協力が成果を揚げた。   絶滅の危機に瀕するトキの保護増殖に懸命に立ち向かった方々の努力、苦労、無念さをあらためて認識しました。それにつけ深く考えさせられるのは、現在、国内には絶滅の危機に瀕している野生生物が多数存在することです。野生生物が危機に追い込まれるのは生息環境が損なわれることによる場合がほとんどですので、自然開発や農薬散布などに当たっては野生生物の保護への十分な配慮が望まれます。
 トキの保護増殖に関しては、日本と中国が密接に連携をとり、政府間協力が実施されることで進展をみました。絶滅の危機に瀕する野生生物の保護増殖事業については、トキの成果を踏まえ、今後も二国間、多国間の協力で取り組んでほしいと思います。
(2013.5.3) 
江原  満 氏
(東京都足立区) 
中国のトキ、友友と洋洋が日本にやってきた日   1999年1月に中国のトキのつがい「友友」と「洋洋」が佐渡に到着した時、私は環境庁の野生生物課に勤務していましたので、当時のことを思い出しました。
 2羽のトキの到着から1週間ほどを置いた2月7日に、中国から王志宝国家林業局長を団長とするトキ贈呈代表団(一行6人)が来日し、翌2月8日に、大臣室で王局長から「友友と洋洋の写真パネル」を真鍋大臣へ手交する形で「トキ贈呈式」が執り行われました。この時駐日本中国大使館から程永華公使参事官(現在、駐日本特命全権大使)の姿もありました。翌日には代表団は佐渡トキ保護センターを訪問します。私は野生生物課長に随行し、これに同行する機会に恵まれました。フライングケージに移されていた「つがい」は好物のどじょうをついばむなど食欲も旺盛でした。2羽のトキを間近に見たときは感激しました。王団長ほか代表団一行は同センターでは、近辻宏帰さん(故人)の説明に熱心に耳を傾けていました。「つがい」が慣れるまで飼育指導のため、中国洋県トキ救護飼養センターから席さん(女性)もトキと共に佐渡に到着していました。王団長は「中日両国の技術者が協力して、友友と洋洋の二世誕生が一日も早く実現することを心待ちにしている」と記者団の質問に応えていました。
 あれから14年が経過しました。2012年末の日本のトキは、飼育されているトキ199羽、放鳥され野生下にいるトキ77羽の合計276羽。中国からやってきた友友と洋洋の2羽が276羽に増えたことになります。当時を振り返ると驚きであり、喜びです。この間トキの飼育にかかわったすべての人々のご苦労に感謝し、敬意を表します。
(2013.5.1)
山口  学 氏
(東京都目黒区) 
トキ野生復帰のためお役に立ちたい.
 平成24年4月、トキの雛が佐渡の野に誕生し、トキ野生復帰の新たなステージが始まりました。ここに至るまで、種の絶滅を防ごうとする大勢の人々の多大な支援と協力を得た長い道のりでした。
 日本鳥類保護連盟は、トキの保護増殖事業につき日中政府間の協力に参加し、民間レベルでの協力を進めてまいりました。「中国トキ保護基金」を設け、平成7年から現在まで、中国におけるトキ保護のための調査などに必要な車両、各種器財等の提供を行っています。この間、経団連自然保護基金、地球環境基金およびサントリー世界愛鳥基金の資金助成を得て、中国のトキ保護のための施設、設備および各種機器の整備のほか、トキ保護の必要性を訴えるシンポジウムの開催や映像等の資料の作成も行いました。また、中国トキ保護観察団のエコツアーを実施し、トキ保護の普及啓発と協力支援に努めています。
 今後、野生復帰の鍵は、繁殖ができる生息環境の保全であり、その成否は佐渡の農家の方々とトキの共生が実現できるかどうかにあります。
 江戸時代のように日本の各地にトキが舞う日が来るよう、当連盟がお役に立つことを願っています。引き続きご支援をお願いします。
(2013.4.27)
上野  攻 氏
(日本鳥類保護連盟参与)
東のトキと西のコウノトリ、今後の課題は同じ。  兵庫県の北部、日本海に面してコウノトリの自然復帰に取り組んでいる豊岡市があります。先ごろ友人たちを誘い、保護増殖事業の現地見学に行きました。
 トキもコウノトリも同じような生態と食性を持つ鳥で、この2種とも自然復帰のためには、農業のあり方も含め生息環境全体をいかに確保し保全していくかが最も大切な課題です。
(2013.4.26)
成田 研一 氏
(兵庫県川西市)
トキ再生への道のりがよくわかりました。  トキのニュースは、所属の野鳥の会から入ってきますが今回この解説を読み、きちんと纏められているので流れがよくわかりました。中国の洋県でトキが発見されたときは、本当に嬉しく思いました。仲間の中には現地に見に行った人もいます。
 今はコウノトリの放鳥なども成功し、それが観光資源にもなるので地元の市も積極的になっていますね。ということは地域全体で本当の自然はどうあるべきかということに対する関心が深まったことと、また多少値段が高くてもその田んぼで作られたお米を買いたいという都市に住む人々の気持ち、つまり日本全体で環境に対する意識が変化したのだと思います。ですからトキのために協力する農家の方も増えるのではないかと期待しております。
 放鳥トキのメスが何羽か遠くへ行くと素敵な相手に出会えると思ったのか、佐渡から本州に飛んできたそうですが、トキがまったくいないので、がっかりしたことと思います。将来、海を越えて飛んできてよい相手に出会えるようになるといいですね。
(2013.4.24)
古川 セツ 氏
(川崎市)
世界の持続可能性は前進したか    関心の持続と自覚をもっての地道な取組みが 肝心。  過去20年間の環境問題に関連する主要項目の数字の推移が、この問題の深刻さと巨大さを雄弁に物語っています。地球の持続可能性を前進させるためには、世界の英知をあつめ、その上で強力なリーダーシップによる果敢な実行力が求められているのではないでしょうか。
 問題の大きさに比して、個人の力はあまりにも小さく、ほとんど無力に近いように思われます。しかし、私たち一人ひとりがこの問題に関心をもち、環境保全に役立つ行動をすることの積上げによって変化していく面もあるはずで、このような自覚をもって、地道に取り組んでいきたいと思います。
(2013.2.5) 
斎藤 治美 氏
(相模原市)
実効性ある対策が求められている。   諸指標の推移からみれば「一歩前進、五歩後退」という評価はもっともと思います。しかし、開発途上国の人達が少しでも豊かになろうと必死になっている姿をみると、難しい問題ですね。
 折りしも、中国で浮遊粒子状物質の大気中の濃度が上がって、日常生活にも支障をきたし、さらには周辺国にも飛来しているというニュースが流れています。中国の新政権には、領土問題などよりこうした国民の健康に直結する問題に優先して取り組み成果を揚げてもらいたいものです。
(2013.2.2) 
 加納 正弘 氏
(横浜市)
環境負荷の低いエネルギー消費への転換を図ることで成長する筋道をつけるべきと思う。   地球規模の環境の現状が端的に示され、大いに考えさせられます。私は、日本は高齢化が定着するまであと40年程度は経済成長が必要だと考えており、一方で発展途上国も当然成長することを考慮すると、このままではエネルギー消費の伸びは止まりません。むしろ、先進国が自国の経済成長の鈍化を低開発国の成長を取り込んで補おうとしていることが、事態を一層深刻にしてしまわないか心配です。ここはどうしても、日本が率先して環境負荷の低いエネルギーへの転換を図ることで成長する筋道をつけなければいけないと思います。
(2013.1.26) 
 宇野  裕 氏
(日本社会事業大学専務理事)

(130501再編、130607更新)