世界の持続可能性は前進したか


地球サミットから20年   
 1992年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された「国連環境開発会議」すなわち「地球サミット」から今年6月で20年になるので、それを記念した会議が再びリオで開催される。
 このサミットには、ほとんどの主要国から大統領や首相が参集し、そこから今日にまで繋がる多くの成果が生まれた。
 主だった成果を列挙すると、地球温暖化防止のための条約、生物多様性を保護する条約、さらに環境と開発を巡る大原則を打ち立てた「リオ宣言」、失われていく森林を守るための文書、さらには後に条約として結実する砂漠化対策などが、直接の成果として出てきた画期的な会議である。このほかにも、政府の代表団だけではなく、各種の民間団体、NGO、自治体もいろいろな形で参加をした。従来、この種の会議には参画していなかった多様な主体も積極的に参加して大いに盛り上げた。
 このように、地球サミット自体は、多様な人・組織の参加の下、今日まで続く様々な枠組みの構築に大きな成果を挙げたが、それから20年経った現在、世界の状況がどうなったのかを改めて、再検討してみようというのが、「リオ+20」の趣旨である。
この20年に何があったか
 地球サミット後、国際的にも国内においても、確かに大きな変化があった。
 例えば、地球温暖化については、京都議定書が生まれ(1997年)、発効(2005年)し、昨年のCOP17において、同議定書の延長が決まり、2015年までに新しい法的枠組みを作るという合意が得られている。生物多様性についても、一昨年、名古屋でCOP10が開催され、数値目標を含む生物多様性をステップアップするための仕組みが合意された。また、ISOについて言えば、拡大・充実され、民間企業中心の自主的な枠組みではあっても、実質的にかなりの効果を挙げている。
 各国でも様々な法律や組織が制定されている。日本では、地球サミットの翌年には、それ以前の公害対策基本法を抜本的に変えて、環境基本法が制定されたのをはじめとし、2000年には、循環型社会形成推進基本法、2008年には生物多様性基本法が制定されている。このような基本法の制定だけでなく、各種リサイクル法の実施や、省エネ推進の強化、さらには、グリーン購入法など、様々な法制度が出来ている。役所の組織も、2001年には環境庁が環境省に格上げされた。
世界は「持続可能性」へ向かっているか ~ 1歩進んで5歩下がる ~
 このように持続可能性を高めるための制度は確かに進んだが、その結果として、地球環境や我々人間社会の持続可能性が92年よりも前進したかというと残念ながらそうは言えない。次の表を見ていただきたい。これは、世界の持続可能性が高まっているかどうかについて、かねてから気になっていた主要項目について、改めて数字的にまとめたものである。
 項 目   1990年  2010年  比 率
GDP(名目)  22兆2400(USドル)  63兆640(USドル)   2.8倍
人 口   53億人
先進国:11億人
途上国:42億人
69億人
先進国:12億人
途上国:57億人
1.3倍
(注)20年間の人口増加分は日本総人口の12.5倍 
エネルギー消費量       
  石油  31.5億トン  40.3億トン  1.3倍
ガス 17.7億TOE(石油換算トン)   28.6億TOE  1.6倍
石炭 22.2億TOE   35.6億TOE  1.6倍
原子力  4.53億TOE   6.26億TOE  1.4倍
水力  4.89億TOE   7.76億TOE  1.6倍
自動車台数  5億8000万台   9億6525万台(2009年)  1.7倍
CO2排出量  226億トン   332億トン  1.5倍
CO2濃度  354ppm   389ppm  35ppm上昇
(注)なお、この間、世界の森林面積は大幅減135万k㎡(これは、日本の総面積の3.6倍)、特にアフリカ、南米での減少が著しい。反面、アジア、ヨーロッパでは若干の増加。

出典:国連、BP等のデータを使用し、環境文明研究所にて作成

   私自身、例えば、世界の人口増加とかCO₂排出量の増加とかそれぞれ断片的には把握していたが、このように一表にまとめてみるとたった20年の間にも、極めて大きな変化が生じており、それはいずれも環境的にも、資源的にも人類社会の持続可能性を高めるようには動いていないことが明瞭だ。特に、世界の人口がこの20年間に日本の総人口の12.5倍に匹敵する16億の増加があった事実には、改めて驚いた。世界は16億も増えた人々に、食べ物を与え、着るものを与え、住む場所を与え、職業を与え、交通など移動手段を与えなければならない。それはいずれも、有限ですでに傷ついている地球環境により多くの負荷をかけるものであり、まず環境面の持続性が危ういことが理解できる。しかも、この20年の間に中国、インド、インドネシアといった人口の多い国が、経済的に急速に発展した。
 グローバル経済化によって貧富の差も広がり、この問題が、社会問題の域を超え、政治的にも大きな影響を与えるに至っている。
 
一歩前進、五歩後退?   
   このようなことを考慮に入れると、結局、世界は、真に持続可能な社会を築くという観点からは、どの程度前進したのか、あるいは後退したのかという問いに直面する。
 私の率直な判定は、“一歩前進、五歩後退”で、極めて深刻な状況にある。できるだけ早く、せめて「三歩前進、三歩後退」くらいに持ち込み、2030年頃までには「五歩前進、二歩後退」位にしないと、私たちの未来、つまり次世代が生きる世界は本当に危ういとの危惧の念を拭えない。
 6月の中下旬に開催される一連の「リオ+20」会合では、世界が次世代のために持続性を回復する足場をしっかりと築けるかどうか、注視していきたい。
 
  加藤 三郎 
  (NPO法人 環境文明21 共同代表) 
 この解説は、NPO法人環境文明21の会報である「環境と文明」の2012年4月号(20巻4号)の巻頭言を転載(要約)したものです。ただし、要約と文節の見出しは、当サイトの編集者によります。
 要約転載を許諾してくださった執筆者と「環境と文明」誌編集者のご好意に感謝します。
 比較と評論 目次へ  

(130122追加)