電子打楽器の是非

自分がドラマーとして参加しているバンド、SISUでの録音作業をしているときのこと。一番初めはスタジオを借りてアコースティック半分、エレクトロニック半分という構成で、足りないマイクの分を補っていたんですけど、素人ゆえ何度も録り直しをするうちに金銭面で不都合が出てきてしまいました。その経験を踏まえて次回録音時にはRoland TD-7を購入、全て電子楽器の構成で少ないチャンネル数での録音に臨みました。概ね成功したんですが、音色的に、細かい表情の演奏にはついてこれないという、聴く人が聴けばやはり電子楽器だとわかってしまう問題をクリアできませんでした。

そこで考えたのが「最近のドラム音源を買う」ということ。Roland TD-8とTD-10に注目しました。どんな感じなのかな、と試奏してみたんですが、パッドは跳ね返りが強過ぎて自分には合わず、音源だけでもと思っていじろうとしたその時、店のどこかからか聞こえてきます、エレクトロニックドラムを持っている人間にとっては聴いただけでそれとわかる不自然なスネアの音。よくよく見渡すとそのTD-10を活用したデモビデオが流れていました。そのビデオはプロドラマーが叩いていたので演奏には文句をつけるつもりはありませんが、がっかりしたのはその音。エレクトロニックドラムの欠点丸出しでした。特にスネアの音はアラが出まくりです。しかし、もし初めに音が耳に入ってきたのではなく、ビデオを見ていたら演奏者にだまされて「すごい」と思って買っていたかもしれません。ああ危ない。こんな音だったらずっと前の機種である、自分の持っているTD-7の方がまだ細かい表情を出せます。

きっと、スネアやシンバルのロールの再現に関してはメーカーは最重要課題として取り組んだのだと思います。でも、全然ダメです。これがきっと現在の技術の限界なんでしょう。シンバル音の減衰の長さはメモリ容量の増加によって長くなり、音色的にも平坦ではなくなりました。でも、ず〜っとデモ演奏のビデオの音を確認していて、初代TDシリーズ(TD-7や5)から較べてはっきり進歩を確認できたのはそこだけです。そのビデオでの演奏者は普通のドラムセットの音以外にもいわゆるパーカッションの音や、ブラッフォードよろしく音階のついた楽器音でも演奏していましたが、音はその程度でした。

僕がシモンズを買ったのは家で静かに練習したかったためではありません。バンド音楽の一部として使いたかったからです。TD-10なんていうものを買ったアマチュアの方々はライブで演奏するためやストレス解消のため、家でアコースティックドラムを叩けないためなど、さまざまな理由で買われたことかと思いますが、いったいどれだけの「TD-10をライブで使ってみたい」と言う人がライブで使うことでしょう。いえ、使えることでしょう。使いこなせるかどうかなんていうくだらない問題ではなく、物理的にそれが置けるかどうか、です。現在、ほとんどのライブハウスでは元々アコースティックドラムが設置されていて、喜び勇んでエレドラセットを持っていってもそんな馬鹿でかいオブジェを置けるようなスペースはありませんし、限られたセッティング時間の中で置き換えるなどということをしていたら、自分達の演奏の時間は10分とないでしょう。そんな巨大な荷物が「ライブパフォーマンスで威力を発揮」できるとは到底思えないのです。

アレはあくまでも本物っぽいドラムというだけで、本物ではありません。しかも悪いことに本物よりもスティックの返りがよく、変な音ムラも出ないので、素人には本物よりもよく見えてしまうことでしょう。僕はそんな「本物っぽい」エレドラ買えるお金があるなら、そのお金で、上位機種と大して変わらない機能で、しかも持ち運び、設置がしやすい安いゴムパッドのエレドラと、家で叩けない、しかもかさばるとは知りながらも、ライブを視野に入れた時のためにそれなりにいいアコースティックドラムのセットを買ったほうが非常に合理的だと思えるのです。わかってもらえるでしょうか。しかし目的は人それぞれです。買うなとまでは言いませんが。


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