You got me good.  (一氏×金色)





「機嫌悪いな」
 気が付けば、すぐ後ろから声が聞こえた。何故顔も見ないで機嫌が悪いだなんて言えるのか。小春は彼が不思議だった。彼は、小春のダブルスパートナーのユウジは、周りに気を使うような性格ではなくて、自分の目の前以外は何も見ていないくせに、何故だがいつも本当のことを言い当てるのだ。それがごく当たり前のことのように、実にあっさりと。当の本人が自覚していないような――自覚したくないような事でさえ、鋭い一重の目で暴き立てる。小春はもう何度もそんな光景を見てきたから、ユウジの声がした途端、みっともなくて恥ずかしい自分の状況を隠すことを諦めた。もっとも、自分から曝け出すことは出来なくて、背を向けたままで弱々しい反論を試みる。
「……そんなことないよ?気のせいやわ」
「また振られたん」
「……そんなん違う」
「ああ、告白もさせて貰えんかった?ネタにされたんか?またお前はキッツイ女にばっかり惚れよるから痛い目見るんやで。ホンマ学習せぇへんのな。可哀想な奴」
「うるっさいわユウジ!!ほっといてんか!」
 まさに今、ちょど失恋したばかりの小春に、ユウジはそれと分かって言いたい放題だ。いつもなら自分のことも冗談にしてしまう小春の余裕も、今日ばかりは面積が足りなかった。柄にも無く声を荒げる。すれ違った女の子が、チラリと彼らを眺めていった。それでもユウジは言葉を止めない。女の子の綺麗な後ろ姿を自慢の三白眼で睨みながら言う。
「誰がほっとくかアホ。ふらふら〜って、泣きそうな顔して歩きよって、母性本能くすぐられる女が出てきよったらどないしてくれる。無駄なライバル増やさんといてくれ、エライ迷惑や。とっととこっち向け、そんで笑え」
 向け、と言って後ろから小春の手をさらうと、その手を堅く掴んだままユウジはポケットに手を突っ込む。そして手近な花壇の端っこに座った。勢い小春も隣の腰を下ろす。突然の行動に小春が文句を言うより早くユウジが小春の顔を覗き込む。放課後の校内はまだまだ沢山の学生が居て、二人の遣り取りの間にも数人が通り過ぎていった。手を繋いで寄り添って座る、おまけに見つめ合った男二人が彼らにどう見えるか考えると、小春は一刻も早くユウジの手を振り解きたい気分になる。けれどユウジのまっすぐな目が小春の逃亡を許さない。
「笑え。笑うまで離さへんよ」
 大真面目な顔で告げられて、小春はどうにも負けたような気分になった。ユウジは小春が好きだと臆面もなく告げるくせに尊大で、自分勝手な感情ばかりをぶつけてくる。その勝手な言葉や行動は小春を困惑させ、そして長年育ててきた鉄壁の外面を少しづつ壊していた。だから今も、小春は堪えきれなかった。
 憧れの彼女が欠片の悪気もなく笑顔で言った厳しい言葉も、その言葉におどけて返すことしか出来なかった自分も、その小春に笑い転げた彼女のくしゃくしゃの笑顔も、小春の中に酷い傷を付けた。もう死んでしまいたいと思うくらいの傷は、けれど、ユウジの臆面のない一方的で我侭な愛の吐露に振り回されて、気が付けば感じなくなっていた。
「なに言うてるの。笑顔なんて、相手に作ってもらうもんやなくて、自分が作ってやるもんや。君が笑わせてくれんのが正解ちゃうの?」
 ユウジくん、強要はアカンわぁ、と、小春は笑って突っ込みを入れた。




(初出20060702日記にて)


 小春ちゃんを困らせるくらい小春ちゃんを好きなユウジが素敵だと思います。そして小春ちゃんは余裕のあるふりで自分の首をしめると素敵だと。うっかり強がってOKしてしまえばいいよ。そのまま流されてしまえばいいよ!


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