信仰



風の強い春の朝は、神を感じるコトがある。
ひたすら乱される髪と制服、目に入るゴミ。
散ったさくらの花弁が再び舞い上がる。
雲が追いやられた青空、遠くまで見渡せる坂の上。
そんなときに神を感じ、想う。
どうしようもなく急き立てられる感じで祈る。
幼いころから馴染んだ教会の空気を思い出す。
同時にソレが全く異なる種類のものなのも、もう分かっていた。

最近、自分の祈る意味は変わってきたのだ、実際。
首から下げたロザリオも、もう彼の人を感じるためのものではない。
十数年の間自分の枢軸であった彼は既にその位置にいない。
その存在を信じなくなったのではなく、どうでもよくなった。
一層タチが悪い、と我ながら思う。

風に煽られて想うのは地上の人であり、その人を作り出した世界だ。
そこに神をみる。
昔の自分がキリストの神を想ったのと同じ感覚が湧き上がる。
急き立てられる感じでどうしようもなくその人と世界がいとおしいと想うのだ。

百日前から自分の枢軸に成り代わった大切な大切な地上の人。
彼への信仰を導いてくれる書物も訓話もなく、ただあるのは荒削りな感情。
一方向のみを向いて動かすことが出来ないでいる。
多分ずっと。
この先が深淵であっても気付かずに、彼のみ見つめて落ちていくのだろう。
それはそれで酷く幸せだ、と思う自分はかなり危ない人間だと思う。
そう、かつての主がご覧になったら酷く嘆かれるだろう。
ああ、この羊は救えない(地獄行きだね)と。

ふふ、と笑う。
呆れるくらいに明るい声が出る。
彼の人の下す決定は背徳の欲望を抱く自分には相応しい。
通学電車を降りた途端に前に見えた後姿をみて、そう思えた。
キレイに伸ばした長い髪。
風に乱されながら、それでも緩く結ぶだけにしていて。
何度も何度も顔に掛かる髪をかきあげる仕草をする。
それは少しおかしくて、大変可愛らしく見える。
声を掛けるため、走って彼を追いかけた。
巻き上がる風と目を刺す青空。
振り返る地上の人。






神よ。




宍戸に狂う鳳が好きです。
20020405up